
中小企業の世襲制度は嫌いだ。
なぜかというと、殆どの中小企業における世襲制度は、父親である代表者は「自分の子どもだから跡を継ぐのは当然」という考えを持っているからだ。組織の整った企業だと例え「息子」でもきちんと組織がスクリーニングをかけて適任かどうか判断しているから、その場合は別。
子供から「こんな会社で是非仕事をしてみたい」そんな気持ちを抱かせるような魅力的な企業の場合も別として、売上も魅力もミッションも大してないのに「継ぎなさい」なんて頭ごなしにいわれても何も面白くないし、能力のない息子たちは「特段やりたいことないし、将来社長になれるんやったら…」そんな軽い気持ちから跡継ぎ社長の座へ導かれるのが大半なのではと思う。
実は私の祖父は食材の卸問屋の創業者で、父親はその二代目。本来であると私は三代目になって家業を継ぐことが自然だったのかも知れない。しかし、そうならなくていいようにしたのは私の父からの一言だった。「好きなことしたらええ。お前やったら別でできることある」
その当時は、学生の自分でも分かるくらい景気のいい時で、会社として大変儲かっていたころに言われたことだったので自分に能力がなく単純に継がせたくないんやなって思った。
京都にある堀場製作所は計測機器の総合メーカーとして1000億超の売上をもっている。25カ国の海外拠点もち、グループ従業員は5200名の大企業だ。
この堀場製作所の現社長は創業者である堀場雅夫氏の実息子である、そう世襲企業だ。しかし、この親子関係と世襲の仕方は他の中小企業の世襲制度とは大きく異なる。(この会社は上場も果たしており売上の額、独創性や市場占有率などからして中小企業のカテゴリに入れることがちがっているのだが)
堀場雅夫氏は現社長の堀場厚氏をどう育て、息子である厚氏はあとを継いだのか?
父である堀場雅夫氏はこう語っている。
「天は二物を与えず」というがそれは裏返せば誰にもない一物、つまり特別な能力、才能はどんな人間にも備わっているということ。問題は子どもがどう気づくか、だから父親は口出しをせず、子供の好きにさせるのが一番と語る。
現社長の厚氏に対して、将来の経営リーダーにとの思いがあったのかという問いに対して、「全くない。右顧左眄せず自分の意見をハッキリ主張できるかどうか、また前例を踏襲するだけの社長はいらない」と語っている。
そのマインドは堀場厚氏の中にしっかりと受け継がれ、誰かに指示されお膳立てされた仕事はまず面白いと思わない、自らの責任で考え行動し、失敗や困難を乗り越えて目標を達成してこそ仕事は充実する、それがこの会社の社是である「おもしろおかしく」へと繋がっていくみたいだ。
息子が父親の仕事に将来継ぐためにつらい同業他社で修行時代を経て、家業に戻るということをたまに耳にするが、その息子達に対して、辛い仕事をして楽しいものへと化学変化して家業に戻れそうか?と問いたくなる。なぜならば、殆どの場合自ずからすすんでやっていることではないだろうから独創性のあるアイデアも持ち合わせたこともないし、そういう教育の元だから化学変化なんて起こらないだろう。
つまり、その業態で仕事はできるがその業態以外では務まらない人間が出来上がってしまうのである。
さらに、特別な能力を持たずして、他の会社を知らず父親の仕事を踏襲するのはさらに重症だ。
もちろん、これにあてはまらない立派な方もいるが、確率としてのはなし。ご容赦いただきたい。
私の父親は三年前に他界し、原動力を失った祖父の会社はあっけなく廃業した。
いま、自分は生かされているという感覚はまったくない、自分個人としてしっかり生けぬける方法を父親のおかげで身につけることが出来ている、これは父親に感謝しないといけない。
もし、あのまま跡継ぎになっていたら廃業せずにすんだのかも知れない、いや廃業は訪れるべきことだったのかも知れない。まぁ、後を継いでいたら、どちらにしても今のような強い野武士にはなれていないだろう。